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「お茶の時間」を聴きながら

 アルバイトのアフロくんがTwitterを始めてから1ヶ月がたちました。いろんな人と知り合えたようで、アフロくんは毎日楽しそうにイカフォンをいじっています。アフロくんがTwitterで知り合った人の中には、店長がプロのミュージシャンになるきっかけとなったギタリスト「中川イサト」さんのご息女がおられます。イカスミカフェのサブタイトルは「スプラとラグと、時々、エッセイ」なのに、実は一度もエッセイを書いていなかったので、今日は、幸運にも中川イサトさんのオープニングアクトを務めるチャンスを得た、19歳の店長を振り返りたいと思います。

「お茶の時間」を聴きながら

 ヒーローショーのヒーローは握手をしてくれる。たしか、1000円ほどの追加オプションで写真も撮れたはずだが、母いわく『小さすぎる子供は撮れない』そうなのだ。自分と同じくらいの子供が写真を撮っていることを母に報告すると、『大きいお兄ちゃんと撮ってるからOK』ということらしい。なるほど、私には大きいお姉ちゃんしかいなかった。おそらく、当時のヒーローショーはジェンダー不平等指数が半端なく高かったのであろう。

 しかし、私には写真などどうでもよかったし、なんなら握手もついでだった。私がヒーローショーの握手会の列に並ぶ真の目的は「スーパー戦隊に勧誘されること」だったからだ。目の前のヒーロー(出来ればレッド)に「キミは特別なパワーを持っているね、オレ達と地球の平和を守ってくれないか?」と言われるために並ぶのだ。

 残念ながら私には、なかやまきんに君の半分も特別なパワーが無かったようで、どのスーパー戦隊にも誘われず、小中高を経て、新たな夢を叶えるため進学することにした。

 その頃の私の夢は「イス専門のデザイナー」だった。イスをこよなく愛し、イスしか作らない、イス専門のデザイナー。テーブルのデザインを依頼されようものなら「座りたいのかい?座られたいのかい?どっちなんだい⁉︎」と謎のキレ方をする孤高のデザイナーだ。仮にチェアーマンとしておこう。

 関西のそっち系の学校で学ぶこと半年、舞台芸術の先生との雑談中、話の流れでチェアーマンの野望を語ったところ、「面白いと思うけど、そんな仕事はないよ?」と言われて大きなショックを受けた。その日のデッサンの授業中、新聞で折った兜を模写しながら「あれ?もうこの学校に通う意味なくね?」と教室を飛び出し、「イスとテーブルはセットで売ってるのよ?バカなのかな?」と涙ぐむ母の反対を押し切って上京。今思うと、本当に頭が悪い18歳だった。

 東京での最初の一年は「演劇集団円」の故・福沢富夫先生に師事し、芝居の世界にのめり込んだ。一年と経たず、大河ドラマや刑事ドラマに出演させてもらったり、トヨエツとの共演を果たした私は、分かりやすく世の中を舐めた天狗に育ち、その鼻はレインボーブリッッジよりも長く、誰にも封鎖することはできなかった。

 更に調子に乗った私は、「テレビよりも舞台の仕事がしたい」などとそれっぽいことをぬかして、当時所属していた事務所を退所、「キャラメルボックスみたいな劇団に入って、上川隆也みたいな顔になる」というスローガンを掲げ、知り合いの劇団の客演をしながら日々お芝居の勉強に励んだ。

 当時、黒字経営の劇団など劇団四季の他にはニ座くらいしかなく、どこの劇団員もアルバイトをしながら舞台に立っていた。稽古の時間や小道具を作る時間も必要なので、皆それぞれ、てっとり早く稼げるキツイ肉体労働や、水商売をする者が多かった。

 私はというと、亀戸のカジノでディーラーをしていた。もう時効なのでいうけど、おもいっきり違法カジノである。自分がシャッフルしたデッキで、強面の客が100万単位のお金を溶かしたり、もう辞めたいと言った先輩が、翌日、全身アザだらけで出勤してくる日常はスリリングだったが、普段あまり知り合わない業界の人と出会うことができた貴重な場所でもある。

 そして私は、この店の厨房で働く友人の紹介で、天才ヴァイオリニストの少女と運命的な出会いをすることとなる。

 彼女は、葉加瀬太郎など優秀なヴァイオリニストを世に送り出した「東儀祐二氏」から直接指導を受け、音楽の才能に溢れていた。

 実は私も、詩吟や琴の師匠だった祖母の血に導かれたのか、幼少期はエレクトーン、小学生からはピアノ、中学はドラム、高校はギターと、常に楽器を演奏していたので、そこそこ音楽の知識はあり、自然な流れでユニットを組むことになった。

 私が作詞作曲して、彼女が編曲を担当する、アコースティックギターとヴァイオリンのユニットである。

 オリジナル曲が10曲ほど溜まったので、ライブをしようということになり、渋谷APIA(現APIA40)と江古田マーキーのオーディションを受け、どちらも一発合格だった。江古田マーキーはキャパ70人の狭さにも関わらず、「あがた森魚」から「影山ヒロノブ」まであらゆるジャンルのプロフェッショナルが演奏する老舗のライブハウスである。

 斉藤和義もこのライブハウスの出身だし、漫画「BECK」に登場するライブハウス「マーキー」は、ロンドンの伝説的ライブハウス「マーキー・クラブ」からきていると見せかけて、実は江古田マーキーなんじゃないかと個人的には思っている。なぜなら店長がそっくりなのだ。

 今はどうか分からないが、マーキーのオーディションに合格すると、最初に必ずプロのオープニングアクトをすることになっていた。そう、このとき、私達のユニットが前座を務めさせていただいたのが、「中川イサト」その人だったのだ。

 このブログの読者のほとんどが20代前後なので、ご存じないかもしれないが、中川イサトという人は、間違いなく国宝級のギタリストである。私が生まれるずっと前から活動されている人なので、その日のイサトさんはもうシニアに近い年齢だったかもしれない。

 ギタリストのステータスのひとつに、自分モデルのギターが有名メーカーから発売されるというものがある。

 名門「Gibson」から日本人初(世界で5人目)のシグネチャーモデルが販売されたのは、B'zの松本孝弘氏だが、アコースティックギターの世界的トップブランド「Martin」から日本人初のシグネチャーモデルが販売されたのが、中川イサト氏であると言えば、その偉大さが伝わるのではないかと思う。

 かくいう私も当時は「なんでこの人の前座なんだろう?もっとメジャーな人がよかった」などと罰当たりなことを思ったことを覚えているが、知らないということは恐ろしいもので、逆に何のプレッシャーも感じることなく前座を務め上げることができたのも事実である。

 イサトさんがステージでセッティングをはじめた、いろんな機材を準備していたのが印象的だった。そして演奏がはじまると、私は数秒で中川イサトの大ファンになってしまったのだ。

 イサトさんが使用しているギターそのものが、私のギターより良い音であることは当然なのだが、フィンガースタイルの親指から放たれる6弦の「ズン」という低音の粒、どの曲にも無駄な音がひとつもなく、まるでライブアートで繊細な彫刻を彫っているかのような演奏。そして、ギターって打楽器だっけ?と思うほど力強く弦やボディを叩く独特な奏法は、薄暗いオレンジのスポットライトと共に、今も脳裏に焼き付いている。

 セットリストも終盤に入るとき、最前列でイサトさんの運指をかぶりつくように観ていた私は、ふとイサトさんと目があった(気がした)。イサトさんはとても優しく微笑むと、MCをはじめた。

 一言一句をハッキリ覚えていないことが悔やまれるのだが、たしかこんな感じだったと思う。

「このジャンル(ソロ・アコースティック・ギター・インスト)は、日本で演奏している人が少ない。もっと若い人にも興味を持ってもらって、後を継いでくれる人が増えて欲しいと思っている」

 それを、目があったまま言われた(と感じた)私にとっては、ヒーローショーのレッドに「オレ達と一緒に地球を守ってくれないか?」と言われたも同然である。食い気味に「はい師匠!」である。

 イサトさんのステージが終わるや否や、楽屋に飛び込んでCDを買い、その場でサインをもらった。そのCDと、「良い声してるな、ギターはちょっと弾きすぎかな(笑)」と声をかけて頂いたことは今でも宝物である。

 その後、役者を辞めてギタリストへの道を歩み出すも、右手に大怪我を負い、指を思うように動かせなくなったので断念したが、幸いパソコンやボーカロイドなどのソフトウェアを使うことで音楽を続けることができたので、今はアニメやゲームの音楽に関わらせていただいている。

 それもこれも、中川イサトというスーパーヒーローが導いてくださったからだと、あの日の夜に思いを馳せてみた。名盤「お茶の時間」を聴きながら。

 ここに生前のご指導に心から感謝するとともに、哀悼の意を表し、謹んでご冥福をお祈り申し上げます。

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